徒然MEMO

もともとは読書日記。今はよしなしごとをメモする場として。

『TRAIN‐TRAIN』とウディ・ガスリーについて―鉄道開業150周年に寄せて―

「栄光に向かって走る列車」と図書館で出会う
2022年10月。日本で鉄道が開業して150周年を迎えた今月、テレビやラジオの特番で、ときおりザ・ブルーハーツの『TRAIN‐TRAIN』を耳にします。
今から34年前、1988年にリリースされ、翌1989年のテレビドラマ『はいすくーる落書』の主題歌となり、彼らが世間に広く知られるきっかけになった曲です。

アルバムバージョンだけですが、この曲が始まる前に甲本ヒロトのハープが、蒸気機関車の排気音を奏でます。それは、乾いた大地をひた走る、かつての米国の巨大な列車を思わせます。

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この曲のモチーフになったのが、ウディ・ガスリーの自伝だと思われます。
ウディ・ガスリーは、1930年代にから50年代にかけて米国で活躍したフォークシンガーです。ボブ・ディランなど多くのミュージシャンが憧れた存在で、『路上』を著したジャック・ケルアックなど、「ビート世代」の作家たちにも影響を与えたと言われています。


何十年も前の話ですが、私が、ある図書館を訪れたとき、ふと手にして読んだのが、ウディ・ガスリーの『ギターをとって弦をはれ』というハードカバーでした。
1942年、彼が30歳のとき、ギターを片手に米国を放浪する自身の体験を書いたもので、貨物列車に飛び乗って無賃乗車の旅をするシーンなどが描かれていた気がします。
この本は、晶文社から1975年に出版されたものですが、おそらく今は絶版です。

本作には、
「栄光に向かって走ってるんだ、この電車は」
といった内容の詩が印象的に使われています。
調べてみると、これは『BOUND FOR GLORY』というゴスペルソングの歌詞をアレンジしたもので、ウディ・ガスリーも録音していたようです。

ボブ・ディランもこの曲をカバーしていますが、この著書に強い衝撃を受けたことが、一時期、本人いわく「ウディ・ガスリー・ジュークボックス」になるほどのガスリー好きになったきっかけの一つのようです。

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そして、この自伝は映画化もされています。

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日本版の表紙にも大きく掲載されていますが、この著書の原題も『BOUND for GLORY』。
「栄光行き」です。

『TRAIN‐TRAIN』が収録されている、ザ・ブルーハーツのサードアルバム『TRAIN-TRAIN』のアルバムジャケットは、米国の鉄道の切符をかたどっていて、裏面には『Bound FOR glory』と書かれています。
1988年11月23日に発行された「栄光行き」の切符です。


ジャック・ケルアックと放浪とウディ・ガスリー
この曲をつくったのは、マーシーこと真島昌利
彼は「ビート世代」の作家のひとり、ジャック・ケルアックの愛読者で、ライブでもしばしばジャック・ケルアックを描いたTシャツを着ていました。
放浪の作家、ケルアックの代表作の『路上』や、とくに貨物列車で旅する『ザ・ダルマ・バムズ(旧題:ジェフィ・ライダー物語)』からは、ウディ・ガスリーの存在の影響が色濃く感じられます。
ちなみに、ザ・ブルーハーツの最初のアルバムの1曲目『未来は僕等の手の中』をつくったのはマーシーですが、その歌詞は、『路上』の登場人物、ディーンをイメージしたものではないかと勝手に確信しています。
『路上』には『オン・ザ・ロード』という新訳版もありますね。

ちなみに、以前、「KEROUAC(のちにKERA)」という女性ファッション誌が登場したとき、「なぜケルアック?」と思ったものですが、「ストリートスナップ→路上→ケルアック」ということだったようです。

そういえば昔、都内に「サルパラダイス」というレゲエのクラブがあった気がします。サル・パラダイスは『路上』の語り手の名前です。

マーシーも、ボブ・ディランジャック・ケルアックなどからさかのぼって、ウディ・ガスリーを知り、彼の曲を聴き、彼の自伝を読んだのでしょう。

タイトル「TRAIN‐TRAIN」が予言したもの
ちなみに、英国のビリー・ブラッグは、ウディ・ガスリー同様、ギターの弾き語りのイメージがあるミュージシャンですが、1986年のアルバム『Talking With The Taxman About Poetry』には『Train Train』という曲が収録されています。
マーシーはこの曲へのオマージュとして、『TRAIN-TRAIN』というタイトルをつけたのかもしれません。

このビリー・ブラッグですが、1992年のウディ・ガスリー生誕記念コンサートに出演したことがきっかけで、ウディの娘から、父の遺した詩に曲をつけることを依頼され、ウィルコ・ジョンソンと『Mermaid Avenue』というアルバムをつくったそうです。
マーシーは、結果的に、ビリー・ブラッグウディ・ガスリーの強い結びつきを見抜いたようなタイトルをつけたことになりますね。

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パンクと図書館と落書きと
ある小さな街の図書館に、もしもまだ『ギターをとって弦をはれ』が置いてあるならば、その本の真っ白だった1ページに、『TRAIN-TRAIN』の歌詞が鉛筆でびっしりと書き込まれているかもしれません。
はいすくーる落書」ではなく「らいぶらりー落書」。けしからんですね。

(追記)
あるブログ真島昌利の文章を見つけました。
レコード店などでも配布されていた「青心会通信」のもの。
カローラかぁ」「コーラかぁ」と変なところに感心した記憶があります。
この文章を読んだから、ウディ・ガスリーに関心を持ったのかもしれません。


「BOUND FOR GLORY」
86年夏のブルーハーツのDMについてた、マーシーのエッセイ

この汽車は乗せていないよ。ばくち打ちも、
ウソつき野郎も、ドロボウも、羽ぶりのいい流れ者も。
この汽車は栄光に向かって走っているんだ。
この汽車は!――――――――――――――――
今にも泣き出しそうなくもり空の下、甲州街道をまたぐ
歩道橋の上で(重いクルマが通るたびに揺れている)流れて
いく自動車を見ている。こんなに沢山の自動車はいったい
どこから来て、どこへ行くんだろう。
去年の夏 親父のダサイ カローラで むし暑い夜を走り出た時、
美しい夜明けの光の中で道ばた教会の看板が輝いていた。
その看板にはデッカイ文字でこう書いてあった。
―――――――あなたの人生に勝利を!!――――――――
「はい。どうもありがとうよ!」と言いながら僕はコンビニエンス
ストアの前にカローラを止めて、冷たいコカ・コーラを飲んだ。
信号が変って歩道橋の下の横断歩道を買物カゴをさげた
オバサンや学生や背中のまがった老人が各々のスピードで渡って
いる。そこで僕は自分にとっての栄光と勝利を考える。
この小さな土の固まりが焼けつく太陽から飛んできた最初の
ときからの人々の栄光と勝利について考える。
激しい雷鳴のなかで抱き合い、KISSを交わしあった恋人達に
ついて、苦労ばかり多くてむくわれる事の少ない人々について考える。
1930年代のほこりまみれのアメリカ大陸をギター片手に放浪し
風と共に去っていった吟遊詩人ウディ・ガスリーは言ったものだ
「おれがやめることになれば、今度はあんた達が仕事をやめて
旅に出るべきだ。やるべき旅は山ほどあるのだから。」
自由でいる事の責任はいつだって自分自身で背負うべきモノだから、
僕は強くなりたい。そして流されるのではなく、流れていきたい
自分の意思で。なぜかというと流れずによどんだ水は、
やがてクサってしまうんだぜ、ベイベー! THE BLUE HEARTS
明日はどっちだ!! それじゃあ、またね。GUITARのましまです。