徒然MEMO

もともとは読書日記。今はよしなしごとをメモする場として。

夏目漱石「吾輩は猫である」

 笑える。
「中学教師に拾われた猫が語り手となって、周囲の人間模様を面白おかしく書いた」と、それだけ言うと、そんなに面白い本かいなぁと思うかもしれないけど、本当に頭のいい人は、そんな設定でも素晴らしい本を書けるんやな。
 主人公は胃痛の中学教師、くしゃみ先生。胃潰瘍だか何だかで死んだ漱石自身がモデルなんだろう。
 猫は温かい視線で、そして、冷静な視点で、このくしゃみ先生を批評する。ほめてるんだか、けなしてるんだかわからない、というか、完全に気違い扱いなんだけど、そのニュアンスが絶妙。
 その他、先生の周囲の奇妙な知識人の博識ぶった話し方も、猫の目を通過すると、漱石が自ら学者達を滑稽な存在と捉えてることがわかって微笑ましい。
 くしゃみ先生が、そして猫が、あらゆる人間を徹底的にこけおろし、馬鹿にしつくしたなかで見えてくるのは、漱石自身が、自分や世間に対して持つ、ある思いの吐露、あるいは爆発。
 今の人間、今の社会にも十分に通用する、啓示に満ちた内容を、上品かつ下品な笑いでコーティングした「乙」な一品、ナンセンスだけど思索的な超実験小説とでも言えまいか。
 ちなみに、普通の物語のような展開力はなし。ラストも変。小説というよりエッセイ。
 発売時、ベストセラーになったらしい。
吾輩は猫である (新潮文庫)